安大夫頼時がむこ藤原経清平永衡といふ者あり
大夫すてに謀叛するをみてしうとをそむきて国府
へまいれる或者将軍に語云永衡御方へ参れりと
いへども内心にはさだめて安大夫をわすれじ外には帰伏
の有様を示て毒害の心あらんか常に御方の軍の有様
をつげやらんため也永衡はこれ前司登任の郎等也当国
に下向してあつく恩を蒙て一郡を領す而を大夫がむこ
と成てのち国司と大夫と相戦間大夫が方に寄て重恩
の主を射たる者也況着するところの甲銀にして人に
にずこれ戦の間太夫が兵にみしられていられじと構たる
事也すみやかにこれをきらるべしと云将軍この事を用て
永衡を切つ宗とある郎等四人同これを切つ爰経清恐を
抱て安心なし窃に郎等らに語云前車の覆は後車のつつ
しみなり十郎すでにきられぬ我又何日か死とすれ郎等
云君ふた心なく将軍に仕つかへんと思へり然而しかれども讒言必出来て安事
なからん歟早逃て本の如く安大夫に随給ね君独魚の
肉たらんに臍を噬とも甲斐あらじ爰経清支度を
めぐらして将軍に申云大夫兵を国府へまはして守の
妻子を奪とする也と云将軍是を聞て大に驚て国府
へ向給ひぬそのまぎれに経清私の郎等八百余人を相具
て大夫が許へ逃帰て種々の悪行をいたす間守殊に経清
を誅罰すべきよし思ふかし