おとゞはつゆをかしたることなきにかゝるよこ
ざまのつみにあたるをおぼしなげきてひの
さうぞくをしてにはにあらごもをしき
ていでゝ天道にうたへまうしたまひ
けるそのほどひと/\みなゝげきさは
ぎてあるほどにゆるしたまふよし
むまにのりながらうちいりたればいまは
つみせらるゝぞといひてひといへなき
のゝしるにゆるしたまふよしおほせ
かけてまいりぬればまたよろこびなき
おびたゞしかりけりゆるされたびたれ
どおほやけにつかうまつりたまひては
よこざまのざいゝできぬべかりけりといひ
てみやづかへもしたまはざりけり
【読み下し】
大臣は、つゆ犯したることなきに、かゝる横
様の罪にあたるを、覚ぼし嘆きて、日の
装束をして、庭に荒薦を敷き
て、出でゝ天道に訴へ申したまひ
ける。そのほど、人々みな嘆き騒
ぎてあるほどに、赦したまふよし、
馬に乗りながら、うち入りたれば、「いまは
罪せらるゝぞ」といひて、一家なき
罵しるに、赦したまふよし、仰せ
駆けてまいりぬれば、また喜びなき
おびたゞしかりけり。赦され賜びたれ
ど、「公に仕うまつりたまひては、
横様の罪、出できぬべかりけり」といひ
て、宮仕へもしたまはざりけり。