絵巻詞書集

 餓鬼草紙
第一段

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鬼あり。食水となづく。ながきかみゝだれて、お
もてにおほを□ふたがりて、ものみることあた
はず。飢渇の火、みのうちをやく。たへがたさ
に、おのづからかはのほとりにゆきて、みづをの
まむとすれば、みづをまもるおにどもきた
りて、おひてうたむとすれば、にげはしり
まどふ。又、おのづからかはをわたりたる人の
あしのしたゝりをねぶりて、いのちをいく。む
かし、さけにみづをいれてうり、みゝずのしづ
みたるをもかへりみずして、さけをうりし人
これにおつ。
【読み下し】
鬼あり。食水と名づく。長き髪乱れて、面
に覆下塞がりて、物見ること能
はず。飢渇の火、身の内を焼く。耐へ難さ
に、自ら河の辺に行きて、水を飲
まむとすれば、水を守る鬼ども来
りて、追ひて打たむとすれば、逃げ走り
惑ふ。又、自ら河を渡りたる人の
足の滴りを舐りて、命を生く。昔、
酒に水を入れて売り、蚯蚓の沈
みたるをも顧みずして、酒を売りし人
これに墜つ。