絵巻詞書集

 餓鬼草紙
第六段

  ← 第七段

第五段→ 


おにあり。焔口となづく。そのかたち、みにくゝ
して、やせかれたり。くちのなかより、火もえ
て、のむどはりのごとし。かみゝだれて、つめ
ながく、きばながくして、はなはだおそれつ
べし。この鬼、阿難尊者にあひて、苦患のた
へがたきことをかなしむ。阿難尊者、これを
きゝて、あはれみのこゝろをおこして、鬼の苦
をすくふべきありさまを、ほとけにとひた
てまつりて、仏号をとなへて、さま/\の施を
行じて、鬼の苦患をすくひけり。
【読み下し】
鬼あり。焔口と名づく。その貌、醜く
して、痩せ枯れたり。口の中より、火燃え
て、咽喉針の如し。髪乱れて、爪
長く、牙長くして、甚だ恐れつ
べし。この鬼、阿難尊者に遇ひて、苦患の耐
へ難きことを悲しむ。阿難尊者、これを
聞きて、憐みの心を起こして、鬼の苦
を救ふべき有様を、仏に問ひ奉
りて、仏号を唱へて、様々の施を
行じて、鬼の苦患を救ひけり。