絵巻詞書集

 後三年合戦絵詞
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城をまきて秋より冬にをよびぬさむくつ
めたくなりてみなこごえておのおのかなしみ
ていふやうこぞのごとくに大雪ふらむ事すで
に今日明日の事なり雪にあひなばこごえ
しなむことうたがふべからず妻子どもみな
国府にあり各いかでか京へのぼるべきといひ
てなくなくふみどもかきてわれらは一定雪
におぼれてしなんとすこれをうりて粮
料としていかにもして京へ帰のぼるべし
といひてわがきたるきせながをぬぎのり
馬どもを国府へやる城中飢にのぞみて
まづげす女小童部など城戸を開ていで
くる軍どもみちをあけてこれをとほしや
るこれを見てよろこびて又おほくむらが
りくだる秀武将軍に申やうこの下とこ
ろのげす女童部みな頸をきらむといふ
将軍そのゆへをとふ秀武がいふ様目のまへ
にころさるるを見ばのこるところの雑人さだ
めてくだらじしからば城中のかてとく
尽べきなりすでに雪の期になりたることを
よるひるおそれとすかた時なりともとくおちん
事をねがふこのくだる所の雑女童部は城
中の兵どもの愛妻愛子どもなり城中に
をらば夫ひとりくひて妻子に物くわせぬ事
あるまじおなじく一時にこそうえしなむず
れしからば城中のかていますこしとくつくべ
きなりといふ将軍これをききて尤しかるべし
といひてくだるところのやつどもみなめのまへ
にころすこれをみてながく城の戸をとぢて
かさねてくだるものなし