絵巻詞書集

 葉月物語絵巻
第二段

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このおはするかたのかうらむにしばし
よりかりてゐたまへるにふたつ
みつばかりなる子のうつくしきがいでき
たるををのれはたれがこぞ弁がこかと
の給へばうなづくこれひめ君にたて
まつれとてちゐさきかみをしたみて
とらせ給へればかたはらふしてゐたまへるに
いりてたてまつればなにぞとてみ給に
いみじくおかしきあしでにかきたるを
たがぞとおもひよらずのたまへばとざまに
をよびをさしてはか/\しくもいはねば
人のてならひなめりとてめでたく
もとみたまふ

【読み下し】
このおはする方の高欄に、しばし
依りかりてゐたまへるに、二つ
三つばかりなる子の美しきが出来
たるを、「汝れは誰れが子ぞ。弁が子か」と
の給へば、頷く。「これ、姫君にたて
まつれ」とて、小さき紙を押し畳みて、
取らせ給へれば、傍ら臥してゐたまへるに、
入りて奉れば、「なにぞ」とて見給に、
いみじくおかしき葦手に書きたるを、
「誰がぞ」と思ひよらず宣へば、外様に
指をさして、はか/\しくも言はねば、
「人の手習ひなめり」とて、「めでたく
も」と見たまふ。