絵巻詞書集

 葉月物語絵巻
第五段

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おかしうきこゆるむしのねに御こと
ふえあはせてあそばせたまふ宮は
なにごとよりもびわをいみじうひき給
ける大将のふえのねことのしらべは
まことにみねのまつかぜにもとはま
ほしくなに事もすべてこの世に
あまりてはべる人ぞかしと申たまへば
あまりなるざえによろづの事て
おしみたるぞにくきやうちとけたる
あひすみはみなれたまはむとすらん
うらやましうとのたまはす

【読み下し】
おかしう聞こゆる虫の音に、御琴、
笛、あはせて遊ばせたまふ。宮は
なにごとよりも琵琶をいみじう弾き給
ける。「大将の笛の音、琴の調べは、
まことに峰の松風にも問はま
ほしく、なに事もすべてこの世に
あまりて侍る人ぞかし」と申たまへば
「あまりなる才によろづの事、手
惜しみたるぞにくきや。うちとけたる
相住みは、見なれたまはむとすらん。
羨ましう」と宣はす。