絵巻詞書集

 葉月物語絵巻
第六段

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きさいの宮めずらしうさとにおはし
ますおりにしもありければかねて
よりおとこにておはしまさばとおぼし
ければ大殿にも大将の御かはりとあつ
かひきこえ給なるをかねてよりさも
おもひ侍しをときこえさせ給ければ.
御あへものにもいとよき事春宮の
たぐひなくおはしますにも女宮たち
だにもとおぼしめすなぐさめに
いとよきことなりときこえさせ給て
大将殿にもかくなんときこえさせ給へば
おぼしよろこびてわたしたてまつらせ
たまふべきよし申させたまへば御めの
とたちをはじめていみじき人/\を
えらばせたまふ内よりもまことなら
ましやうにゆかしがらせたまふにも
おなじくはとぞあかずおぼしめす
十一日といふにぞわたしたてまつらせ給
けるよにしらずうつくしきちごの
御ありさまになにごともわすれさせ
給て御まいりの事もおぼした
たまはぬにあやにくにしげき御
つかひもまことの御うぶやと見えて
めでたし


【読み下し】
后の宮、めずらしう里におはし
ますおりにしもありければ、かねて
より、「男にておはしまさばと、思し
ければ、大殿にも「大将の御かはり」と、扱
ひ聞こえ給なるを、かねてより「さも、
思ひ侍しを」と聞こえさせ給ければ、
「御肖物にも、いとよき事。春宮の
類なくおはしますにも、女宮たち
だにも」と、思しめす慰めに、
「いと良きことなり」と聞こえさせ給て、
大将殿にも「かくなん」と聞えさせ給へば、
思し喜びて、渡したてまつらせ
たまふべきよし、申させたまへば、御乳母
たちをはじめて、いみじき人々を
選らばせたまふ。内よりも、まこと成ら
ましやうに、ゆかしがらせたまふにも、
「おなじくは」とぞ、飽かず思しめす。
十一日といふにぞ、渡したてまつらせ給
ける。世に知らず、美しき児の
御ありさまに、なにごとも忘れさせ
給て、御まいりの事も、思した
たまはぬに、生憎に繁げき御
使ひも、まことの御産屋と見えて、
めでたし、