絵巻詞書集

 平治物語絵巻
三条殿夜討巻第一段

  ←三条殿夜討巻第二段


九日丑剋ばかりに信頼卿数百騎の軍
兵を相具て院御所三条殿へ参て信頼
をうたるべきよし承れば東国の方へまかり
候なむず年来ちかくめしつかはれて御いと
をしみも人にすぎて候つるに君をわかれまい
らせて忽に都をいで候なん事こそ心うく
候へと申せば上皇こはいかなる事ぞ何
もの信頼をうつべきぞと仰ありけるを
承もはてずやがて兵ども御車をよす信頼
とく/\御車にめすべし今は御所に火をかけ
よと下知しければ御心ならず御車にめして
けり上西門院はもとよりのせまいらせたりけり
師仲卿ぞ御車をばよせける信頼義朝佐
渡式部大夫重成検非違使源光基前検
非違使季実等御車を打かこみて大内へ
わたしたてまつる一本御書所にをしこめまい
らせて重成光基守護しまいらせけり
御所には軍兵四方をうちふさぎ火を放て
もれいづるものをば射ころし切ころすもしやた
すかるとて井にぞおほくおち入ける上下の
女房つぼねのめのわらわべをめきさけびて
はしりいでたふれふす馬にふまれ人にふまる
浅猿ともいふはかりなし命を失ふもの数をし
らず義朝謀反をおこして三条殿に夜打
に入て火をさして院も煙中をいでさせ給はず
といふものもあり大内へ御幸なりぬともの
しりければ大殿関白殿よりはじめ奉て公卿
殿上人をの/\群参せらる馬車の馳ちがふ
をと雷のごとし天にひき地にひく事おびた