絵巻詞書集

 石山寺縁起
巻六・第三段

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藻壁門院と申は光明峯寺関白の御むす
め西園寺太政大臣公経公の御外孫也後堀河
院御位の時妻后にて世のおぼえやむごと
なく昔のためしにもたちこえさせ給ひしが
寛喜二年御懐孕のこと聞えしかば
父関白三ケ條の願書を奉らせ給ける其詞云
敬白 発願三ケ條
一中宮御願成就事
右石山寺者
聖武天皇濫觴之地良弁僧正修練之砌
也法興院禅定大閤法成寺禅定相国持以
帰依之由聊有所見於是東三條院者円
融院之正后一條院之母后也上東
一條院後朱雀院の国母也国之良弼近不
過彼両閤家之吉例亦可在彼両院者歟方
便中宮忽示蘭夢之瑞可期蓬矢之慶
也紈質無恙珠胎共全者必尋彼時崇重
之先跡宜抽当寺興隆之新誠抑本尊
如意輪観音者御身中奉籠太子像矣
皇子降誕太子策立之表相不在于茲乎
寛仁三年長久四年答前相国之朝祈代
外祖父之慕賽再降阿闍梨之綸旨永
備当伽藍之鏡鑑必率由其佳躅可被
果遂今御願矣
一我一流繁昌事
右宜以当寺尊崇之丹誠必遂我家繁昌
之素懐女則叶東三條上東門両仙院之佳
例為正后為国母男亦継法興院法成寺両
禅閣之勝躅為周公為漢霍戚哩之寄在
此一族摂関之名不及余流千子萬孫相承
無絶聖主賢臣合躰如此矣
一順次往生事
右昔有一相者見当山云此地者是往生之砌
也栖此者可遂其望詣此之人果如其言
夫順次往生者弟子蓄懐也猗矣此寺叶
于此道殊運信力可期菩提大悲観音
済度勿愆
以前三箇條発願如件
寛喜二年八月日弟子關白正二位藤原朝臣道家敬白
されば此御願のおもむき一々にこたへける
にや同三年二月皇子降誕同十月太子に
せ給ふ貞永元年十月二歳にて位に
つかせ給ひけり我御一流繁昌もたぐひすく
なきほどの事にてぞ侍ける兄弟二三人
まで摂関にいたる人/\もまれにおはし
けれどこの殿の御子孫にて九條二條一
條とて三流あひならびてわたらせ給ふうへ
此外緇素男女の御息達さま/\前途を
達し高位にいたらせ給ふ事偏に観音の
御利生にこそ侍るらめ現世の御願こと/\
く成就しぬるうヘは順次往生もうた
がひなくぞおほえ侍ることに摂家の御
帰依余寺の同類には侍らざらんかし