絵巻詞書集

 石山寺縁起
巻七・第一段

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弘安のころ園城寺の住侶に円兼僧都と
いふものあり身のまづしきことをなげきて
年来当寺にまうで祈申侍けるがある時
重病にをかされて命もあやうければ一筋に
観音の悲顧を仰てさま/\祈精しけるに
いさかうちまどろみたる夢にびんづら
ゆひてから衣などにやとおぼしき白装束
したる童男一人枕に立そひてちいさき
鉢のやうなる物にものを入て汝にこれ
を服すべしと教給ふて服すると思ひて
則身もすしくロ中もかうばしくにほ
ふ心ちしてうちおどろきて枕の辺をみける
にちいさき鉢のやうなる物とまりたり
円兼随喜の涙をながし看病の輩も不
思儀の思ひをなして侍けるが重病たち所に
平愈して八旬の齢をたもちけるうへ富有
のものにさへ成にけり帰依の余に夢想に
感じ侍し童男の姿と如意輪の像とを
作たてまつりて一の帳の中にならべ
すへて件の鉢にて日佛供をまいらせて
あがめをこなひけり其ころ寺門のた
かひ侍しにさま/\の高名の聞え侍ていさ
かの疵をもかうぶらずならびなき名人にて
その跡今にかはらずぞ侍なり