絵巻詞書集

 石山寺縁起
巻七・第二段

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正応のころ白河の辺にまづしき尼あり
けり下人けんぞくもみなにげうせてた
十八になりける女子ばかり身にしたがふもの
にて有けるが彼女子ひとへに仏神の御た
すけをたのみてこかしこにまうで
有さまを祈りありきける程に或人の物
語に石山の観音こそよろづの神仏の
御めぐみにもれむひとをたすけんといふ
御誓はあるなれといふを聞て当寺に
もうで祈申けれどもそのしるしもなかり
ければ母をたすけむ為に大津の浦に
行て身をうりてけりそのかはりを母の
もとにつかはしてさま/\ありふべき世のわ
たらひなんどをしへをきて則かいたる人
にぐして打出の浜より船に乗てしら
ぬ浪路にこぎ出ける程ににはかに風はげ
しく浪あれて乗たるふね浪にしづみ
けるに此女一すぢに観音の悲願を念じ
て船のほばしらに取つきて水のうへに
よひありきける程に白馬一疋浪に
ひかれてちかくよりたるにとりつきてさま/\
にしてみぎはにあがりぬみる人ふしぎ
の思ひをなしてことのゆへをとふにしか/\
のよしをかたりければ浦人も孝養のこ
ろざしふかくて利生もあらたなりける事
を感じて母のもとにをくりつけぬかひとり
つる主はすでに水にしづみければ今は
ぬしといふものもなかりける程におもひの
外にびんよきたよりさへ出きてたのもしき
もの妻になりて母をもやしなひ一期
とみさかへたるものになりて人にもうら
やまれけるとなむ