絵巻詞書集

 吉備大臣入唐絵巻
第三巻第二段

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きびこれをえてもむぜんの上ち
十巻がはし/\を三四枚づかきてろ
うのうちにやりちらしつそのち一両
日をへてもんぜん三十巻をぐして
はかせ一人勅使としてろうにきたり
て心みむとするにもんぜんのはし/\を
ちらしおきたるをみてたうじむあや
しみていはくこのふみはいづれの所に
はべりけるぞやとへばこのふみはわが
日本国にもむぜんといひて人のみな
くちつけたるふみなりといふたうじむ
おどろきてもてかへるときにきびのいは
くわがもちたる本にみあはせんといひて
もんぜんをばかりとりつ

【読み下し】
吉備これを得て、文選の上帙
十巻が端はしを三四枚づ書きて楼
のうちにやり散らしつ。その後、一両
日を経て、文選三十巻を具して
博士一人、勅使として楼に来たり
て、心みむとするに、文選の端はしを
散らしおきたるを見て、唐人怪
しみて曰く、「この文はいづれの所に
はべりけるぞや」と問へば、「この文はわが
日本国に文選といひて、人のみな
口づけたる文なり」といふ。唐人
驚きて、持て帰るときに、吉備のいは
く、「わが持ちたる本に見あはせん。」といひて、
文選をばかり取りつ。