絵巻詞書集

 吉備大臣入唐絵巻
第四巻第一段

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さてまたうじむぎしていはくざえは
ありともげいはあらじごをうたせて
心みむといひてしろきいしをば日本
の人にうたせくろきいしをばわれらう
ちてこのかたちにつけて日本のつかひ
をころさむとあひぎすおにまたこのよ
しをつぐ大臣これをきてごとはいかや
うなるものぞとたづぬれば三百六十一もく
あるものひじりめ九はべるなりといふ大
臣よもすがらてむ上のくみれにむか
ひてあむじえたり

【読み下し】
さてまた唐人、議して曰く、「才は
ありとも、芸はあらじ。碁を打たせて
心みむ」といひて、白き石をば日本
の人に打たせ、黒き石をばわれら打
ちて、このかたちにつけて、日本の使ひ
を殺さむ」とあひ議す。鬼またこの由
を告ぐ。大臣これを聞きて、「碁とは如何や
うなるものぞ」と訊ぬれば、「三百六十一目
あるもの、聖目九はべるなり」といふ。大
臣よもすがら天上の組入に向
ひて案じえたり。