絵巻詞書集

 粉河寺縁起
第五段

第四段→ 


つぎの年の春、一家をぐして、おの/\さう
して、紀伊国なんかのこほりにたづねゆ
きぬ。その辺に、「いづれが粉河。/\」と、よろ□□
人にとへども、おほかたをしふる人□□
まれ、やまなかにこそおはします□□□
ふもとにつきてたづねありくほどに、こをすり
ていれたるやうなる河の、しろきながれいでたる
あり。それをよろこびて、河につきてかみざま
にのぼりもてゆくほどに、やまにふかくいり□、
方丈なる庵室あり。それまて人□□
たるあとみゆ。そのをくには、あとだ□□
こそありけれ」と思ひて、あけてみれば、等人の□□
白檀の千手観音きら/\とたちたまひたり。
この我まいらせし袴・さげさや、施無畏の御て
にさげたまへり。そのをりしりぬ。千手観音の
わらはとなりて、人をたすけ給けるな□□
しりぬ。さて、おの/\出家しを□□
れうしが一家、件の粉河の別当□□
いたるまでなりきたるなり。
【読み下し】
次の年の春、一家を具して、各々装
して、紀伊国那賀の郡に訪ね行
きぬ。その辺に、「いづれが粉河。粉河」と、よへろ□□
人に問へども、おほかた教ふる人な□□
まれ、山中にこそおはします□□□
麓に着きて訪ね歩くほどに、粉を摺り
て入れたるやうなる河の、白き流れ出でたる
あり。それを喜びて、河につきて上様
に登りもて行くほどに、山に深く入り(て、)
方丈なる庵室あり。それまで人□□
たる跡見ゆ。その奥には、跡だ□□
こそありけれ」と思ひて、開けて見れば、等人の
白檀の千手観音きらきらと立ち給ひたり。
この我参らせし袴・提鞘、施無畏の御手
に下げ給へり。その折知りぬ。千手観音の
童となりて、人を助け給けるな□□
知りぬ。さて、各々出家し居□□
猟師が一家、件の粉河の別当□□
至るまでなり来たるなり。