絵巻詞書集

 枕草子絵詞
第六段

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つぼねいととくおるればさぶらいの
をさなるものゆのはのごとくなるとの
ゐぎぬの袖のうへにあをきかみのまつ
につけたるをきてわなきゐで
たりそれはいづこのぞとへばさい院より
といふにふとめでたうおぼえてとりて
まいりぬまだおほとのごもりたれば御帳に
あたりたるみかうしをごばむなどかき
よせてひとりねんじあぐるいとをもし
かたつかたなればきしめくにおどろかせ
給てなどさはすることぞとの給はすれ
ばさい院より御文の候はむにはいかでか
いそぎあげ侍らざらむと申すにげにいと
とかりけりとてをきさせ給へり御文
あけさせ給へれば五寸ばかりなるうづちふたつ
をうづゑさまにかしらなどつみてやま
たちばなひかげやますげなどうつくしげに
かざりて御文はなしたなるやうあらむやはとて
御らんずればうづえのかしらつみたるちゐさき紙に
 やまとよむをのきをたづぬれば
いはひのつゑのおとにぞ有ける御かへりかせ給ほども
いとめでたし

【読み下し】
局いと疾く降るれば、侍の
長なる者、柚の葉の如くなる宿
直衣の袖の上に、青き紙の松
につけたるを置きて、慄き出で
たり。「それは、何処のぞ」と問へば、「斉院より」
と言ふに、ふとめでたう覚えて、取りて
まいりぬ。まだ大殿籠りたれば、御帳に
あたりたる御格子を、碁盤などかき
寄せて、一人念あぐる、いと重し。
片つ方なれば軋めくに、驚かせ
給て、「など、さはすることぞ」との給はすれ
ば、「斉院より御文の候はむには、いかでか
急ぎあげ侍らざらむ」と申すに、「げに、いと
疾かりけり」とて、起きさせ給へり。御文
開けさせ給へれば、五寸ばかりなる卯槌二つ
を、卯杖さまに頭など包みて山
橘、日陰、山菅など、美ししげに
飾りて、御文はなし。たなるやうあらむやは、とて
御覧ずれば、卯杖の頭包みたる小さき紙に、
 山とよむ斧の響きを尋ぬれば
祝ひの杖の音にぞ有ける 御返り書かせ給ほども、
いとめでたし。