絵巻詞書集

 枕草子絵詞
第七段

第六段→ 


めでたきことを見きくにはなみだの
まづたいできにぞいでくるやはたの
行幸のかへらせ給に女院の御さじきのあな
たに御こしとめて御せうそく申させ給
世にしらずめでたきにこぼるばかりけしやう
じたるかみなあらはれていかに見ぐるしか
らむせんじのつかひにてたのぶのさいしやう
の中将の御さじきへまいり給しこそいと
をかしう見えしかたずいじむ四人いみじ
うしやうぞきたるむまぞひのほそくしろう
したるばかりして二条のおほぢのひろくきよ
げなるにめでたきむまをうちはやめていそ
ぎまいりてすこしとをくよりおりてそばの
みすのまへにさぶらひ給しなどいとをかし
御返うけたまはりて又かへりまいりて御輿
のもとにてそうし給ほどなどいふもおろか
なりさてうちのわたらせ給を見たてまつらせ
給らむ御心ちおもひやりまいらするはとび
たちぬべうこそおぼえしかそれにはながな
きをしてわらはるぞかし

【読み下し】
めでたき事を見聞くには、涙の
まづた出で来にぞ出で来る。八幡の
行幸の還らせ給に、女院の御桟敷あな
たに御輿停めて、御消息申させ給、
世に知らずめでたきに、溢るばかり、化粧
じたる髪みな現はれて、いかに見苦しか
らむ。宣旨の使ひにて、斉信の宰相
の中将の、御桟敷へまいり給しこそ、いと
をかしう見えしか。た随身四人、いみじ
う装束着たる、馬副の細く白う
したるばかりして、二条の大路の広く清
げなるに、めでたき馬を打ち速めて、急
ぎまいりて、すこし遠くより降りて、そばの
御簾の前にさぶらひ給しなど、いとをかし。
御返受けたまはりて、又、帰りまいりて、御輿
のもとにて奏し給ほどなど、いふもおろか
なり。さて、内裏のわたらせ給を、見たてまつらせ
給らむ御心ち、思ひやりまいらするは、飛び
立ちぬべうこそ覚えしか。それには長泣き
きをして笑はるぞかし。

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