絵巻詞書集

 奈与竹物語絵巻
第一段

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いづれのとしの春とかややよひの
花ざかり花徳門の御つぼにて二条
前関白大宮大納言刑部卿三位頭中
将などまいり給て御鞠侍りしに見物
の人々にまじりて女どもあまたみえ侍
なかにうちの御心よせに思食ありけり
鞠は御心にも入せ給で彼の女のかたをし
きりに御覧ずれば女わづらはしげに
思てうちまぎれて左衛門の陣のかたへ
いでにけり六位をめしてこの女の帰らん
所見をきて申侍れとおほせたびければ
蔵人おいつきてみるにこの女ころへ
たりけるにやいかにもこの男すかし
やりてにげむと思て蔵人をまねき
よせてうちわらひてくれ竹のと申
させ給へあなかしこ御返しをうけ給
らむ程は此門にてまちまいらせんと
いへばすかすとはゆめ/\思よらでた
すきあひまいらせんとすると心えて
いそぎまいりて此こと奏し申せば
さだめて古哥の句にてぞ侍らんとて
御尋ありけるにその庭にはしりたる
人なかりければ為家卿のもとへ御尋
ありけるにとりあへずふるき哥とて
 たかくともなにかはせむくれ竹の
 一夜ふたよのあだのふしをば
と申されたりければいよ/\心にくきことに
思食て御返事なくしてた女の帰らん
所をたしかに申とおほせたびければ立帰
ありつる門をみるにかきけつやうにう
せぬ又まいりてしか/\とそうすれば
御けしきあしくてたづねいださずばとが
あるべきよしを仰らる蔵人あをざめて
まかりいでぬこのことによりて御まりも
ことさめて入せたまひぬ