絵巻詞書集

 男衾三郎絵詞
第一段

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昔東海道のすゑに武蔵の大介といふ大名あり
其子に吉見二郎をぶすまの三郎とてゆしき
二人の兵ありけり常に聖賢の教をまもり侍ければ
よの兵よりも花族栄エイヤウ耀世にいみじくぞ聞えける
吉見の二郎は色をこのみたる男にてみやづかへしける
アルる上臈女ボウを迎てたぐひなくかしづきたてまつり
田舎の習ニはひきかへていゑゐすまひよりはじめて侍女
房にいたるまでことびはをひき月花に心をすまし
てあかしくらし給程になべてならずうつくしき姫君
一人いでき給へり観音に申たりしかばやがて慈悲と
いはんとてさぞなづけ給けるおとなしくなり給ま
にいとなまめき給へり八ケ国の中に聞及て心を
かけぬ大名小名ぞなかりける其中に上野国難波の
権守が子息難波の太郎をむこになさんとて難波より
吉見へふみをつかはしたればこれをばきらふべきに
あらずとて陰陽に吉日をみせられければ占申様
今三年と申八月十一日いぬの時のニよりこのかた吉日みえず
候といふにこの様を返事したりければ権守いつ
までも約束変改あるまじくばとぞ悦ける