絵巻詞書集

  小野雪見御幸絵巻
第一段

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皇大后宮これをきかせたまひて、くれなゐのうすやう□
うちいでの十具ありけるが、霞殿のまの数にたらざりけ
るを、中よりきりていだせと、おほせ事ありけるに、うちへいら□
たまふこともこそはべれと、ある女居の申ければ、雪御覧じに
をはしまして、うちへいらせ給こと、さらにあらじ。たゞきれと
おほせ事ありければ、まの数にいだしてけり。御こゝろ
ばせめでたかりけり。さるほどに御幸なりて、門より御車(を)
ひききて、はしかくしのまにたてられたりけり。うちいできら(/\)
しく、俄ありがたき事と御覧じける程に、霞殿の西向(よ)
りいでゝ、わらはのかざみのすがた、まことにいふなるが、色どりたるお
しきに、かねのさかづき、紺瑠璃の御さらに、大柑子ばかり御さ(か)
なにて、もちてはしより雪のうへにをりたりけり。やがて、又をなじ
さまなる童、御てうしにみき入て、あゆみつゝきたり。目も心(も)
およばず、いふにやさしくめでたかりけり。
【読み下し】
皇大后宮これを聞かせ給ひて、紅の薄様(の)
打出の十具ありけるが、霞殿の間の数に足らざ
るを、「中より切りて出せ」と、仰せ事ありけるに、「内へ入(せ)
給ふこともこそ侍れ」と、ある女房の申しければ、「雪御覧じに
御座しまして、内へ入らせ給ふこと、更にあらじ。たゞ切れ」と
仰せ事ありければ、間の数に出してけり。御心
馳せ目出たかりけり。然る程に御幸なりて、門より御車(を)
引き来て、階隠の間に立てられたりけり。打出きら(/\)
しく、俄に有り難き事と御覧じける程に、霞殿の西向(よ)
り出でゝ、童の汗杉の姿、真に優なるが、色取りたる折
敷に、金の杯、紺瑠璃の御皿に、大柑子ばかり御さ(か)
なにて、持ちて階より雪の上に降りたりけり。やがて、又同じ
様なる童、御銚子に御酒入れて、歩みつゝ来たり。目も心(も)
及ばず、優にやさしく目出たかりけり。