絵巻詞書集

  狭衣物語絵巻
断簡


給。いとゞつつましけれど、はしちかう、うち
ながめ給けるさまながら、のどやかにてもの
し給けはひ、いとめやすし。くゐなの、いと
ちかうなきたるを、
 くゐなだにをどろかさずばいかにして
 あれたるやどに月を入れまし
といと、なつかしう、いひけち給へるぞ、「とり/\
に、すてがたきよかな。かゝるこそ中/\みもく
るしけれ」とおぼす。
 おしなべてたゝくゝゐなにをどろかば
【読み下し】
給。いとゞ慎ましけれど、端近う、打ち
眺め給ける様ながら、和やかにて物
し給気配、いと目安し。水鶏の、いと
近う鳴きたるを、
 水鶏だに驚かさずば如何にして
 荒れたる宿に月を入れまし
といとど、懐しう、言ひ消ち給へるぞ、「取り/\
に、捨て難き世かな。斯かるこそ中々身も苦
しけれ」と思す。
 押し並べて叩く水鶏に驚かば